Hirofumi Tanaka Law Office

コラム

成年後見制度と注意すべき点

現在は高齢化社会ということもあって、高齢者の財産管理が問題になっております。
そこで、高齢者の方の財産管理について、一言述べたいと思います。

例えば、高齢者の方が認知症に罹り、判断能力が低下している状態で、日頃から介護に当たっている方が、本人の預貯金を金融機関から払い戻したり、不動産を売却した場合、他の親族の方が後でこれを知って、「判断能力が低下したことにつけ込んで勝手に財産を処分した。使途はどうなっている!」と追及されるケースもまま見られます。こうした場合、処分をされた方が、本人のために行ったことを説明できれば良いのですが、中には資料がないなどして、十分な説明ができない場合もあり、更に「本人の財産を遣い込んだ」と責められることもあります。
法律上は、本人の判断能力が完全にない場合は、売買や預金払戻は無効であり、「本人も売買や預金の払戻に承諾してくれていた」という主張は困難です。
不動産売買の際に必要な登記手続を行う司法書士の先生や、預金の払戻の際に担当する銀行の方も、こうしたケースでは非常に慎重で、ご本人と面談し、ご本人の判断能力に問題があると判断された場合には、応じてくれません。

このような事態を防ぐには、裁判所に申立をして、成年後見人を選任してもらう必要があります。
本人や配偶者、四親等内の親族などが、家庭裁判所に成年後見人の選任の申立を行い、裁判所において選任されました成年後見人が、ご本人に代わって、資産を処分することが可能です。
親族間で争いがない場合には、日頃からお世話をしている親族の方が成年後見人に就任することが可能です。また、申立書類は最寄りの裁判所に備え付けられており、その中にあります診断書を、専門医である医師に作成してもらうことで、その医師の所見に従った判断を下してくれることが多く、申立自体も、あまり難しいものでもありません。なお、親族間で争いがある場合には、他の親族もご本人の財産を成年後見人が管理することに反対することも多く、ご本人の精神状態を鑑定したり、成年後見人に弁護士が就任することが通例です。
この場合、鑑定費用がかかったり、正式に成年後見人が就任するまで長期間を要することもあります。また、弁護士などは職務で行う以上、裁判所の許可を得て一定額の報酬が発生し、ご本人の財産から支払われることになります。
判断能力が低下した高齢者の方の財産管理を行うため、成年後見制度を活用するケースは増えていると思われます。
実際に、判断能力の低下した高齢者の方の財産運用に関して、親しくされておられます銀行関係の方や、専門家の方に相談しますと、成年後見制度の利用を勧められる、ということもよくあるかと思われます。

ところで、先般、こうした成年後見制度を利用するに当たって、注意しなければならない問題が発生しました。
平成24年4月より、後見制度支援信託制度というものが導入されたのです。この制度は、近年、親族後見人が本人の財産を私的流用するなどの不祥事が発生したことに鑑み、裁判所が、こうした不祥事を防止するため、本人の財産が一定以上ある場合で、親族の方が成年後見人に就任するような場合は、ご本人の日常生活に必要な預金だけ残して、後の財産は信託銀行に預託するというものです。
そして、高額の医療費等の多額の出費の必要性が発生した場合、裁判所から指示書を発行してもらって、財産を管理している銀行に指示書を呈示することで、払戻を受けることができます。
こうした制度の適用対象となる財産は、一般的には、ご本人の現金・預貯金の額として、1500万円以上が目安とされております。親族の方が後見人になるケースを想定しておりますので、親族間で何の紛争もない、円満なご家庭で適用されることが想定されるのです。
そして、申立があった場合、一旦弁護士・司法書士といった専門職の後見人が選任され、こうした専門職後見人が同制度を採用するかどうかを判断することになります。通常、どのような場合に同制度を採用し、どのような場合に採用しないか、といったことは、制度が開始されたばかりである今の時点では不明です。
この制度は、つまるところ多額の資産を信託銀行が管理してくれますので(ただし、信託費用はかかります)、その面では他人の多額の財産を管理し続けることによる負担から解放されます。
しかし、預ける先は、地元で長年お世話になっている金融機関ではなく、後見制度支援信託を取扱う銀行に預ける、ということになりますので、注意が必要です。

成年後見制度は、高齢化社会におけるご本人の財産を守る、という意味で大事な制度です。従って、今後も活用されるケースがますます増えていくかと思います。制度のご利用に当たっては、専門家に相談されるなど、熟慮して下さい。

© 2014 Hirofumi Tanaka
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