Hirofumi Tanaka Law Office

コラム

弁護士人口の増加問題について

昨今、弁護士人口が劇的に増えており、新規登録した新人弁護士の就職難が社会問題となっております。

弁護士があこがれの職業で、セレブの一種であったのも、今は昔。
弁護士になったのは良いが、就職先もなく、顧客もおらず、他方、毎月数万円の会費を支払うのに窮する状態になってしまう、という話は、よく耳にします。

近時、我が業界団体である日本弁護士連合会のトップである会長選挙においても、法曹人口問題が大きな争点となり、従前から政府や財界と共に法曹人口の増加を推進してきた東京や大阪の主流派の候補者と、法曹人口の増加に反対する地方単位会が押している候補者との間で激しい選挙戦が繰り広げられ、今年行われた日本弁護士連合会の会長選挙では、前代未聞の2度に亘る再選挙が行われました。

政府は、弁護士になるための必須の国家試験である司法試験の合格者数を3000人に増加する方向で目標を立てておりますが、平成24年4月に、総務省が3000人の政府目標を削減するよう、所轄している法務省や文部科学省に勧告しました。

私は1994年から1999年まで東京大学で学生生活を送りましたが、当時は「規制緩和」というフレーズが流行し、これに伴い、法曹人口の増員が進められるようになりました。この影響で、弁護士になるには必須である司法試験の合格者が、1999年には、これまでの年間800人から1000人に、そして2002年には1200人に増員されることが決まりました。また、経済界を強くコントロールしてきた官僚に対する風当たりは強く、銀行界からの接待がスキャンダルとして社会問題化されるなどして、法学部の学生の中でも、キャリア官僚への就職希望者よりも、弁護士にあこがれ、司法試験を志す者が増えていきました。

これまで司法試験は、極めて狭き門であり、なかなか試験に合格せず、いたずらに人生を浪費する恐れが強いイメージがありましたが、私の大学の同級生の中でも早くから司法試験の勉強を始めた者は、ことごとく合格していきました。

私自身も、司法試験の合格者数の増加に伴い、同級生が次々と司法試験に合格していく様を見て、司法試験を志すようになりました。

私は、2004年に弁護士登録し、和歌山弁護士会に入会しましたが、入会当時の同会所属の弁護士は70名程度でした。当時は、和歌山弁護士会への入会者は年間1~3名程度であり、私も同期の仲間からは、小規模地方単位会である和歌山弁護士会に入会することに、奇異の目で見られ、よく指導教官からも「東京で学生生活を送ってきたのだから、東京で就職したら良いではないか」とか、指導裁判官からも「和歌山も良いかもしれないが、裁判官になったらどうか」などと勧められたりもしました。

しかし、現在では和歌山弁護士会所属の弁護士は127名に上っており、毎年新規で入会する弁護士は10名前後に上っております。また、これまでは和歌山県下で新規に独立開業する弁護士は、2、3年に一度の頻度でしたが、最近では毎年複数に上っております。

これに対し、弁護士が増加したことで、弁護士が取り扱う紛争事件数が目立って増加したわけではありません。

このような状況下で、「仕事が増えてもいないのに、小さい田舎である和歌山県下で弁護士をしても食べていけるのだろうか。」との心配が、会内でも聞こえております。最近では、会内でも法曹人口の増員に対して反対する意見の方が強いのが現状です。

しかし、弁護士数が激増している現状の和歌山弁護士会内にあっても、メリットはあってもデメリットはまだない、というのが私の実感です。

というのも、私の周囲でも、開業したばかりの弁護士が経済的に困窮しているという話は聞いたことがなく、むしろ、こうした弁護士も、なかなか連絡が取れないほど多忙で、順調に事務所経営をしている者ばかりです。

また、これまで小規模単位会の実情からか、なかなか活発ではなかった人権擁護活動や会の事業が活性化しております。私自身は、会内では、高齢者や障がい者の支援を行う高齢者・障害者支援センター運営委員会など複数の委員会に所属しております。私が入会した当初の高齢者・障害者支援センター運営委員会は、高齢の委員ばかりであり、「高齢者委員会」と揶揄されておりました。しかし、今では入会して間もない若手委員が中心になって新しい事業を次々と立ち上げております。最近でも高齢者や障がい者の方や、支援する方々を対象にした無料電話相談事業を立ち上げ、御坊・日高地域でもPRに奔走しております。

また、私自身は所属しておりませんが、刑事弁護関係の委員会や、子どもの人権擁護関連の委員会、青少年に法教育を啓蒙する委員会なども、若手弁護士が活発に活動し、委員会活動が活性化しております。

これらの委員会活動はすべて無償であり、委員の手弁当で行われております。

このように和歌山弁護士会においても、「お金にならない」が社会的弱者の救済に資するような活動が、法曹人口の増員に伴い新規入会してきた若手弁護士の手によって、活発に行われているのです。

従って、法曹人口の大幅増員に関しては、これを問題視する論調も弁護士会内では強いところではありますが、私自身は、決して問題視すべきではないと考えております。

 

 

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