Hirofumi Tanaka Law Office

コラム

「金融取引からの反社会的勢力排除」の出版に関して

平成27年4月27日、一般社団法人金融財政事情研究会より、「金融取引からの反社会的勢力排除」と題する図書が出版されました。

この本の編者は、第79回民事介入暴力対策和歌山大会実行委員会となっております。平成25年11月に、日本弁護士連合会・近畿弁護士会連合会・和歌山弁護士会の共催で、第79回民事介入暴力対策和歌山大会が開催されました。この際、午前の協議会において、「金融機関からの暴力団排除」と、「暴力団被害の回復」と2つのテーマの報告がなされました。今回の図書は、かかる「金融機関からの暴力団排除」というテーマで報告された諸論文と、これに関連して担当者が執筆してきた論文などを掲載しております。私は、和歌山弁護士会において民事介入暴力対策委員会の委員を務め、このテーマの研究活動に取り組んできました。

本来であれば、和歌山弁護士会の委員が中心となって研究に取り組むところでしたが、何分テーマの先端性などから、和歌山の弁護士だけでは荷が重く、過去、このテーマで研究に取り組んできた大阪弁護士会をはじめとした、近畿弁護士会連合会に所属する民暴委員の弁護士の先生方からご協力をいただきました。こうした先生方のご協力を得て、関西を中心とする多くの金融機関のご担当の方々や、金融庁・預金保険機構・サービサー協会の方々より実情などをご教示いただくことができました。和歌山大会の報告が無事成功し、またその成果を今回の出版に著すことができたのも、皆様方のお陰です。誠にありがとうございました。

和歌山大会は、近畿弁護士会連合会民暴委員会が予てから「金融機関からの暴力団排除」というテーマを研究してきたものを受け継いできました。すなわち、近畿弁護士連合会民暴委員会は、平成23年度には主として預金取引における暴力団排除を、平成24年度には信金信組における会員からの排除・暴力団排除条項導入前の融資取引における暴力団排除などを扱いました。民暴大会では、いわば、近畿弁護士連合会民暴委員会が扱ってきた金融機関からの暴力団排除の3部作の最終章を飾る位置づけにあり、銀行取引の中でも、残された「暴力団排除条項導入後の融資における暴力団排除」に焦点を当て、平成24年頃から研究活動を始めてきました。折から、大会直前にみずほ銀行暴力団融資事件が発覚し、融資取引からの暴力団排除というテーマが脚光を浴びるようになりました。それから1年間の間は、これに関する論文が各雑誌で散見されたり、他会の民暴委員会の研修会でも和歌山大会の成果が取り上げられたりしました。

最近はさすがにこのテーマも落ち着いてきた感がなくもありませんが、しかしながら課題はまだまだあります。一つには、データベース管理・モニタリングの場面で潜在化する一見市民・実質暴力団勢力と、更生していく一見元暴力団・実質市民をどう峻別していくか、正しく捕捉していくかという問題があります。また、いざ回収場面で減額和解に応じることが、各都道府県下で定められた暴力団排除条例の利益供与規制に抵触しないか、という問題もあります。あるいは金融取引の場面に限ってみましても保証協会と銀行との関係は、未だ最高裁などで統一的解決が呈示されたわけでもなく、解決しておりません。さらには、暴力団排除条項などが導入された取引場面で、暴力団員であることを秘した顧客に詐欺罪を追求できるか、という問題に関して、近時、最高裁判決が複数出て、そこにおいて日頃からの暴力団対策の重要性が喚起されました。

暴力団対策という問題の重要性はまだまだ失っておらず、また課題はいくつもある、と思われます。実際に、アベノミクスの下で経済が活況化して行く中、活況化する経済に浸食しようと、暴力団勢力が進出していく可能性は十分あります。たとえばオリンピック事業や、国土強靱化事業、制定された後のIR事業などにおいては、暴力団勢力の浸食があり得るのではないか、と密かに予想しております。和歌山大会の成果は、暴力団対策の解決策を提示できるというものではなく(当初、金融界に解決策を呈示することを目標としてきましたが)、実際にいくつかの問題点を指摘して、問題提起しただけだったかもしれません。しかし、これを契機に、今後も日々の事件処理の傍ら、研究していきたいと思います。

 

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